東京地方裁判所 昭和38年(ワ)504号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は被告にたいし本件建物部分を賃貸していたが、昭和三五年五月八日到達の書面で不法転貸を理由として被告との賃貸借契約を解除した。しかるに被告は原告に対し本件建物部分のあけわたしをなさず賃料相当の損害を蒙らしめているから契約解除の後たる昭和三五年一一月一日から昭和三七年六月八日建物明渡の強制執行をするまで一九ケ月間の損害金の支払を求めると主張した。
被告は昭和三六年二月はじめ、原告は本件係争部分入口のドアーを五寸釘で打つけ、被告らの占有を排除し自らその占有を取得したから、すくなくとも同日以後の分については損害金の支払義務はないと抗争した。
判決は、原告が被告主張どおり昭和三六年二月ころ、本件建物部分の入口に鍵をかけ、その後釘つけにした事実を認めたが、なお被告に占有があるとしてその後の損害賠償義務を認め、つぎのとおり説明している。曰く。
「次に被告は本件係争部分は原告において昭和三六年二月はじめ、入口のドアを釘づけにし、被告や山本の占有を排除して自らその占有を取得したと主張する。この点につき前記甲第一号証の一、二、成立に争いない甲第三号証、証人山本晴江、同小池茂樹の各証言、原被告各本人尋問の結果をあわせれば、昭和三六年二月頃、原告が本件建物部分の入口に鍵をかけ、その後これを釘づけにしたことを認めうるが、右証拠によればそのころ、被告から本件建物部分を転借してバー・シグナルを経営していた右山本が、ガスや電気の料金を滞納したためその供給をさしとめられ、また山本は一時その行方をくらましたことがあり、その留守に若い者が庭に立入つて蝋燭をともしたりして危険であつたので、原告は家主として保安上の必要から入口に鍵をかけたところ、さらにこの鍵をこわして立ち入る等の行為があつたので、さらにこれを釘づけにしたものであつて、原告としては当時山本が従前どおりの状態で使用するのであれば、いつでも釘づけを取り除く意思を有していたものであり、山本や被告も依然本件建物部分に茶ダンス、寝具等その所有物を存置しており、これを原告に任意返還する意志もなく、また返還したものとも思つていなかつたことが認められる。右事実によつて考えれば山本はまだ本件建物部分の占有を完全に排除されていたものではなく、また被告においてこれを原告に返還したものでもなく、原告が終局的に本件建物部分の占有を取得するにいたつたものでもないと認めるのが相当であり、その間の賃料相当の損害の発生につき被告にその責なしとすることはできない。」